この平屋が建てられたのは1936年。大阪の建物に甚大な被害をもたらした室戸台風の翌年に当時の職人によって丁寧かつ頑丈に作られ、代々大切に住み継がれてきました。この建物を相続したオーナーは売却やマンション運用の声がかかる中、子どもの頃に暮らしていた思い入れのある建物を残したいという想いで、リノベーションして賃貸化という選択をしました。
時を経た佇まいをできる限りそのままに、現代的な暮らしに舵をきってしまうのではなく、敢えて建物に合わせて暮らし方も少し時代を巻き戻すようにリノベーション。
居室部分は最低限の修繕にとどめ、当時のままで不安のあった電気・水道といったインフラを整えた。また再利用することが難しかった住設備は入れ替えを行いました。古さによる良さは残しつつも生活上不便なところは解消。縁側の向こうに広がる庭には水栓やフェンスを整え、かつての民家のように畑を耕す生活ができるようにしました。
築89年、低くて堂々とした面構えの木造平屋。
玄関建具は再利用。建付けを調整し戸車交換した。傷んでいた外壁杉板は周りに馴染むように補修している。
赤い郵便受けはそのままに。
築古の木造住宅と思えないほど歪みが少なく、大切に管理されてきた跡を感じる。昔ながらの景色をできるだけ残すようにリノベーションをした。
室内の建具も調整して再利用。賃貸化にあたり、襖や障子は貼り替えている。
室内と庭をつなぐ縁側。このカットが建物の魅力をもっとも引き出してくれるよう企画・設計を行った。
襖や障子で4つに区切られた田の字型プラン。
和室の更新は畳・襖・障子の更新のみ。壁や天井は既存のまま。
部分的にリフォームされていたキッチンは壁を白塗装し、床は周囲の年季の入った木部に合うようにアカシアのフローリングを使用した。
細い通路も段差も無理に解消せず、あるがままに。
高温多湿な夏を快適に過ごすためにつくられた伝統的な日本民家のかたち。
庭は耕す家というタイトルにもあるように畑などに活用してもらえるように整えた。
トイレは機器交換をして、床のみ張替。
できるだけ目立たないように電気配線等も工夫。
物干し金物は一つだけ残っていた金物を模して、残りの金物を製作。見えないところに大工の技術と手間が詰まっている。
とってもかわいい襖の引き手。
建具は鍵とレールのみ更新。なるべく再利用できるような計画としている。
改装後は住居兼オーダースーツの店舗「背広屋 暁」が入居
賃貸募集時には一度の内覧会で複数の申し込みが入り、募集後1ヶ月も経たずに引渡し。住居を兼ねたオーダースーツの店舗「背広屋 暁」が入居した。オーナーが一家で代々受け継いできた建物が、新しい世代に新しい使い方で引き継がれている。
築90年の古民家×背広という独自の世界観を演出。欧米文化であるスーツを、日本独自のスタイルで発信していきたいという思いを込め「背広屋」という言葉を選んでいる。
『ただ、漢臭く。』独立の場所としてこの建物を選んだ背広屋 暁のオーナー。
物件を借りる決め手となった庭は盆栽を育てる場所として。毎朝水やりをして剪定をして整えることから1日がはじまるそう。
小物や照明まで、細部にこだわって空間作りをしている。
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入居者の声
大工だった父親の影響でこういう日本家屋をよく見てたから、いつかは住みたいと思ってた。
決め手になったのは「庭」と「築90年」というところ。そしてなんと言っても丁寧に暮らしてたことを感じさせる佇まい。一家で大切に住み繋いできた実家を賃貸に出すタイミングで、引き継がせてもらえるのはもう縁だと思った。
「背広屋」の世界観を重視した発信はSNSでも反響があり、「こんな空間でスーツを作りたい」と問い合わせや県外からのお客さんも増えた。
盆栽の水やりから始まる1日。静かなでくつろげて、心なしかお客さんも長居する。スーツを作りに来たお客さんが気を張らずにゆっくり接客できる空間になっている。正直、最高です。
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