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畳を再評価する。都市でチルする賃貸暮らし
畳を再評価する。都市でチルする賃貸暮らし
実家の相続を機に賃貸住宅として活用したいという相談から計画がスタートしました。
立地は梅田から一駅の「塚本」。利便性は高い一方で、築52年・専有面積49㎡という条件では、性能や設備だけで新築や築浅物件との差別化を図ることが難しく、市場では競争力を持ちにくい状況でした。
一方で、現地で最も印象的だった窓の外に広がる神社ビュー。豊かな緑が広がり、都市の中とは思えない静けさを感じられる環境がありました。この魅力を最大限に活かす方法として選んだのが畳です。「寝転んで、ゴロゴロして、神社を眺めながらくつろげる」この体験こそが、この住戸の最大の価値になると考えました。
テーマは「都市でチル賃貸暮らし」。ターゲットに設定したのは働き盛りの20~30代の共働きカップル。自宅にいる時間は長くなくても、家ではゆっくり過ごしたいというニーズに応えられる賃貸住宅を目指しました。
当初オーナーからは「また畳を入れるの?」と懸念の声もあったが、和風を演出するためではなく、休息を生む素材としての価値をご提案。また耐久性・メンテナンス性に優れた和紙畳を採用することで従来の畳への不安を解消するとともに、既存床の不陸調整費が抑えられ、工事費の圧縮にも繋がった。
企画の肝となった神社の眺望。街なかとは思えない静けさ。
外との境界を緩やかにし、植物なども置けるようにと、窓際には小さなテラススペースを設けた。
畳の手触りが心地よい。
パーテションでゆるく仕切る。入居者が自由に飾れるスペースに。
広くスペースを使える壁付けキッチン。
造作したキッチンは木目とステンレスのバランスが良い感じ。
洗面台はキッチンと同じ並びに設置。
玄関ドアを開けると明るい光が入る。
天井までない壁で緩やかに個室をつくった。
壁の中はカーペット敷の主寝室。


長らく放置していた実家のマンションをリノベーションして賃貸活用することを決め、ありきたりではない部屋を求めて、アートアンドクラフトさんのオフィスを訪ねたのは昨年の春でした。
初回の企画提案は、「ネオ昭和暮らし」「畳・昭和レトロ・神社ビュー、これらをアイコンにした暮らしを提案」「神社ビューで、チルしてる」。企画書はよくできていました。いやむしろ、賃貸のリノベーション提案でここまで仕上げてくるとは思っていませんでした。しかし、昭和世代ど真ん中の私たちにとって、畳は古いだけで「うーん、わからない」でした。「Z世代にとっては新しいのです」と説明を聞いても、内心「そーなの」と正直、判断がつきませんでした。
ところが、次の提案では、企画書の深度化とイメージの具体化がさらに進んでいました。「令和の時代における畳のあり方」「畳に新たな価値や体験」は、まさに温故知新。言葉だけでなく「なるほど、こーいうことか」と腑に落ちました。
そして今年6月に竣工した築52年の実家と対面した際の感想は「なんということでしょう!(笑)」私たちにとって初めての賃貸リノベーションでしたが、素敵な部屋が完成し、アートアンドクラフトさんに頼んで良かったと心から思えた瞬間です。(オーナーFさん)
今回の計画で大切にしたのは、築年数や広さといった条件だけで判断するのではなく、この物件ならではの魅力を見つけることでした。現地を訪れて印象的だったのが、窓の外に広がる神社の緑。都心へのアクセスのよさに加え、室内にいながら緑を眺めてゆったり過ごせることを、この住まいの価値にできると考えました。
そこで提案したのが「チルする住まい」というコンセプトと、畳のある暮らしです。畳は古いものというイメージがあるかもしれませんが、寝転んでくつろげる心地よさは多くの人が本来知っている魅力のひとつ。”ゴロゴロしたくなる”畳ならではの心地よさを再評価し、現代の都市生活者にとって魅力的な住まいへとリノベーションしました。
所有物件を賃貸化する際、必ずしも全面的に新しくすることが正解とは限りません。物件の個性を見つけ、誰にどんな暮らしを届けたいのかを考えること。それが他の物件との差別化や、限られた予算を活かした計画につながると考えています。(川本)
アーキテクト:川本美佳
