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元診療所を、再びまちにひらく
元診療所を、再びまちにひらく
両親がかつて診療所を営んでいた、角地にある軒の深い家を相続したオーナー。140平米超えのゆとりある建物は、相談当時、家財で溢れ、そのままでは活用が難しい状態でした。診療所閉業後も親戚が編み物教室を開くなど、地域の人が集まる場所だったこの家。「再度地域に開かれた場所にしたい」というオーナーの思いを汲み、家財の整理からサポートを行い、賃貸化に向けた改修を行いました。都心から少し離れた下町の住宅街というエリア特性も踏まえ、職住一体で小さな商いにチャレンジしたい人を入居者に想定。開業のハードルを下げるべく、店舗部分の面積を開業届の必要のない50平米に設定しました。
大阪R不動産での募集開始後すぐに入居者が決定。住みながらゆっくりと開業準備を進め、現在は棚主制のシェア型本屋としてまちにひらけた場所になりました。
かつて診療所としてまちにひらけた場所だった。
道ゆく人の注目の的。待合のベンチがあったスペースに、今は本棚が。当時から大切にメンテナンスされてきた瓦葺の屋根材が、外観のいい雰囲気を生み出している。
玄関を入って左手が店舗区画。立ち上がりのタイルは既存を一部残し、床は土間仕上げで拡張。撤去した壁の補修跡はアーチ型に造作。既存のゆるいアーチ型の垂れ壁と合うように、大工さんに丁寧につくってもらった。
広い土間の反対側は住居部分へのアプローチ。診療所閉業後のリフォームによって失われていた、軒下と玄関のゆるやかな繋がりを復元した。
既存の動線を活用し、「職」と「住」の区分け方がうまくはまった。
既存の細長いコンパクトな空間は、「回廊」のような空間の使い方をイメージさせた。
展示などギャラリー使いの用途を想定し、壁と建具は白色に、アート作品が映えるようにと計画。借主がセミオーダーしたという本棚が映える。
無垢フローリングにウレタン塗装がたっぷり塗られていた床は研磨して、無垢の素材の良さが出るようにオイル仕上げに変更。素直な素材で作られているものを大事に引き継ぐ。
無垢材貼りの天井は素地で柔らかい雰囲気。オイル仕上げに変更した床と、相性バッチリ。
店舗から入りやすい部分にあるトイレ。既存の内装も使えるものはそのまま残し、メリハリをつけた工事で7〜8年での投資回収を目指した。
住居部分の間取りは大きく変更せず、既存の立派な設えを活かした。
各水廻りの贅沢な広さはそのままに、使いやすく更新。水回りの床は、メンテナンスしやすい塩ビタイル仕上げ。職住切り分けの意味も込めて、パキッとした黒色を採用。
既存の内装を利用しながら、設備を更新した洗面室。
住居部分のトイレ。大容量の収納はそのまま利用。
雰囲気の良い2階の和室は、蛍光灯を撤去した部分のみ無塗装のシナ合板に交換。縞模様の天井が不思議と馴染んでいる。今後、シェアスペースとして使う予定。
劣化が見られた2階の床は更新してあえて合板仕上げとし、入居者側で作り込む、又はそのままでも使用可能な状態で募集。
開業後まもなく、知り合い、地域の人、SNSによって棚主が集まってきている。


この家の第一印象は、「風格のある立派な家」ということ。軒下が広く、外構部分にも余裕を感じました。さらに家の内部は、板張りの天井、木枠の窓など、木材がふんだんに使われて柔らかい雰囲気。とても味わいのある落ち着く空間です。また、全体に広々とした作りで職住一体型の物件を探していた私の希望にもぴったりでした。静かな住宅街に位置しているので、暮らす分にはとても快適です。でも、人通りが少ないので、お店を認知していただくのはまだまだこれからです。
この物件は、もともと地元の人たちに親しまれた診療所でした。これからは、シェアスペースやシェア型書店を運営します。人が集い、色々なお話をしたり、やりたいことを実験できたり、そんな場所にできたらと考えています。(舟の杜 Hさん)
設計にあたり私たちが考えたのは、かつてこの家が持っていた「街に開かれた在り方」を継承することでした。ヒントになったのは、診療所を営まれていた当時の1枚の写真。そこから着想を得て土間を広げ、2方向からアクセスできる間取りへ改変しました。
周辺は閑静な住宅街で、単なる飲食店などへのコンバージョンはエリアの特性に馴染みません。そのため、当初の「職住一体」の住まい方を継承することが最適解だと考えました。店舗部分を50㎡以下に区切れる設計とすることで、消防設備への投資を抑え初期費用を軽減できること、そして自身が住むことで家賃の二重払いがないことは、入居者にとってメリットとなります。
「職住一体の暮らし」がこれから何か始めてみたい方にとっての第一歩になればと思いました。無事にご入居も決まり、この場所が再び、緩やかに街へと開かれた存在になっていくことを心から願っています。(西面)
アーキテクト:西面莉沙
