中古マンションや中古戸建てを購入するときに気になる断熱性能。やっぱり冬は寒い?エアコンは効きにくい?インナーサッシは入れるべき?など、リノベーションで断熱工事を考える際に出てくる疑問に対して、入門編として簡単にまとめました。
目次
まずは現況の断熱材の状況を把握しよう
建てられた年代によって断熱性能は大きく違う
「家の作りようは、夏をむねとすべし」と兼好法師が書いたように昔から日本の住宅は夏の過ごしやすさを考えて建てられてきました。古民家などは、隙間風だらけと言っても過言ではありませんよね。日本の住宅が海外と比較して断熱性能が低いと言われるのも夏場が高温多湿な気候からくる歴史的な考え方の違いがあるのかもしれません。
日本で建物に対する「省エネルギー基準」が初めて制定されたのは1980年のこと。1970年代に起きた2度のオイルショックを経て、灯油を使わなくても過ごしやすい住まいが必要だ、と省エネの必要性が叫ばれるようになったことがきっかけです。現在の省エネ基準には冷暖房や換気、給湯、照明など様々な要素が関わりますが、当時は主に「断熱」と「日射遮蔽」についての基準でした。その後、複数回の改正を経て省エネ基準は要素が増え、徐々に厳しいものになっていきます。2025年には、いよいよ住宅の省エネが義務化される、という話題を聞いたことがある人も多いと思います。
知っておきたいのはこれまでの基準はあくまでも「努力基準」であったこと。この年代だからこの性能、と言えるものではありませんので、まずは竣工図書などから現状の断熱材の入り方やサッシの性能などを確認する必要があります。
どこまで工事をするか
数値で明記できるレベルまで正確な断熱性能を確保しようとする場合、外気に接する全ての面の壁、床、屋根(天井)、開口部を隙間なく断熱をする必要があります。立方体で例えると、6面のどこかに隙間があってはいけないのです。
もちろん、そこまで性能を引き上げることも可能。補助金を使いたい場合などは、断熱性能を数値で明記する必要があることもあります。ただし、それ以外の場合ではそこまで「ゼロか100か」という考え方をしなくても大丈夫。当然のことながら工事をすればするほどそこに費用がかかるためです。断熱工事ももちろん重要だけれど限られた予算の中から、内装デザインや間取り、住宅設備にも費用はかけたいと思うのは当然のことです。
夜の寒さが気になる寝室の窓だけインナーサッシを入れる、底冷えが気になる1階の床下だけ入れる・・など範囲を限定した工事をするのももちろんOK。建物だけで解決しようとせず、暖房を併用したり、ご自身の暮らし方と合わせて、全体の予算の中で柔軟に考えていきましょう。
断熱工事、まずは窓から!
住まいの中で一番熱が逃げやすく熱を入れやすいのは窓。夏場は外部からの熱の約70%は窓から、冬場は外部へ逃げる熱の約60%が窓からと言われています。ここ最近は複層ガラス、複層Low-Eガラス、トリプルガラス・・と高性能なガラスがたくさん出てきていますが、2000年ごろまではほとんどの新築住宅で単板ガラスが主流でした。断熱を考えるとき、まずは寒さ/暑さに一番影響する窓から検討しましょう。
ほとんどのマンションでは、窓ガラスとサッシは共用部で、区分所有者が勝手に変更することはできません。そのため、窓は交換ではなく、既存の窓の中にもう1枚サッシを入れるインナーサッシを設置することになります。既存の窓とインナーサッシの間に空気層ができるため、窓からの熱の出入りを軽減する効果があります。インナーサッシにもLow-Eガラスなど熱を遮る加工がされているものがありますので、そういった性能のあるガラスを選べば日射による熱も軽減することができます。また、窓が2枚になることで窓の外と内の急激な温度差が軽減できるので、カビの原因になる結露の防止にも効果が期待できます。
戸建て住宅の場合は、サッシと窓自体を交換することも可能です。ただし、サッシの枠ごと交換をすると外壁の補修などにも費用がかかり大規模な工事になるため、工事が比較的簡易なカバー工法で施工できる窓サッシも発売されています。もちろん、戸建て住宅でもインナーサッシを採用することもできます。
外気に接する屋根(天井)、床、壁の断熱
窓の次に検討するのは、「外気に接する面」の断熱。戸建て住宅だと窓の次に熱が入るのは屋根だと言われています。最上階で夏場に過ごすことが多ければ、天井裏の断熱を検討しましょう。また、古い建物だと冬の1階の床下からの底冷えも気になりますね。床下には空間があることがほとんどなので、床材を交換する際に断熱材も合わせて施工するのがオススメです。マンションも同様に、最上階の場合は天井の断熱材の状態を、1階の場合は床下の断熱材の状態をチェックし、足りないようであれば追加で施工するのも効果があります。
外壁部分にももちろん断熱材を入れる工事は可能です。ただし、一度壁を解体して、断熱材を充填し、再度壁を作る作業が発生するので、費用のアップは避けられないと考えた方が良いでしょう。そのほか、玄関ドアも断熱することも可能です。
間取りでできる工夫もある
更に間取りでできることも多くあります。
窓からの暑さ寒さがどうしても気になるなら、窓際にちょっとしたサンルームを設けてみるのもひとつ。細くても空間があることで、クッションのような役割で室内に伝わる熱や寒さを和らげてくれます。もちろん、普段は椅子をおいたり植物をおいたり、生活が少し豊かになる空間になります。
玄関横に長く土間を確保する間取りも、玄関収納を広く取る・玄関の圧迫感をなくすなどの効果の他に、外気に直接触れない場所に室を作ることができるので多少の断熱効果が期待できます。
また、断熱されたハコを利用した事例もあります。例えば、文化住宅をガレージハウス にリノベーションしたこちらの事例。全体を断熱しようと思うとものすごく費用がかかってしまうことが想定されました。それに、すべて覆ってしまうとこの建物ならではの良さがなくなってしまう…その時に考えたのが、建物全体ではなく一部を断熱し、寒さや暑さの厳しい時期のシェルターにすること。個室部分が断熱されたハコのようになっています。
断熱=とにかく断熱材で隙間なく建物を包んでしまうことだけではありません。柔軟な発想で、ご自身の建物に最適な方法をみつけましょう。
今なら補助金を使って断熱工事ができます。
住宅省エネ2023年キャンペーンとして、2023年は補助金が大きく拡充されています。サッシの交換、インナーサッシ、躯体の断熱工事のほか、高効率給湯器の設置やエコ住宅設備の設置にも補助金が使えます。アートアンドクラフトでは、こどもエコすまい支援事業、先進的窓リノベ事業、給湯省エネ事業の全てが利用可能です。
▶︎関連コラム:住宅の省エネ化への補助金が大幅に拡充されています。
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アートアンドクラフトでは断熱工事の指針を決めて、最適なご提案をさせていただいています。この機会にぜひリノベーションをご相談ください!
*入門編として簡単にまとめています。詳細は建物によって異なります。建築士による詳細な相談をご希望の方は個別にお問合せください。
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文:松下文子 Arts &Crafts 取締役副社長