「すごいこだわりがあるわけじゃないのですが、なんとなく好きなイメージはあって・・リノベーションできますか・・?」そんなふうに聞かれることがあります。設計の打ち合わせがスタートすると、細部まで事細かに検討をして、だんだん盛りだくさんの設計内容になることはよくあります。もちろん、そうやってやりたいことを全部詰め込むリノベーションも素敵。でも作り込みすぎずシンプルに、好きな素材を使って仕上げた空間も、気持ちよく過ごせます。
住まいやオフィスはあくまでも毎日を過ごす場です。時間が経って家族構成や生活スタイルが変わることもあります。思ってもみなかった趣味が見つかることだってあるかもしれません。気張りすぎず少し変化を許容する空間、暮らしの変化に柔軟に対応できる空間を考えてみても、飽きずに長く暮らしやすい住まいやオフィスが実現できるかもしれません。
暮らしの変化を許容する間取り
例えば収納。持ち物にとことん合わせてとことん収納を考えることもできます。でも、長く暮らすうちにものの量が変化する可能性はじゅうぶんあります。「作り込んだ方が絶対使いやすい!」という方以外は、ある程度のスペースのあるストレージを作って、家具や収納ボックスなどを活用しながら使い方を変化させる方が使いやすいですよ、とご提案することがよくあります。ストレージは、その時々、収納として使ったり、ワークスペースとしたり、キッズスペースとしたり、子どもが大きくなって個室を使うようになれば夫婦の寝室となったり・・暮らしの変化を柔軟に受け止めます。
また、特に名前をつけないちょっとしたスペースを残しておいて、そこにイスや小さなテーブルを置くだけでちょっとくつろげる空間になったりもします。
おおらかな素材
木材や漆喰、磁器タイル、モルタルなど昔から住まいで使われる素材も、シンプルで長く使える素材です。逆にいうと、寸法のバラつきや色のムラ、経年変化も合わせて楽しむ気持ちで採用しないと、こんなはずじゃなかった、となってしまう素材でもあります。
電化製品などの工業製品は、品番が同じであれば全て同一で、傷ひとつないきれいなものが購入できます。建物を作る際にも、ビニル素材などの新建材が採用されることがほとんどとなりました。寸法も画一で、メンテナンス性や性能も考え抜かれた新建材は施工性もよく、クレームにもつながりにくいためです。
一方で木材は同じ種類の材でも色も違えば木目や節の入り方も違う。無垢フローリングは季節によって伸縮し、乾燥する冬場には隙間ができます。モルタルは水分が抜ける過程でひび割れが出てきます。それでもその建材でしか出せない風合いや手触りなどがあります。傷がついても味になり、より暮らしに馴染んできます。なるべくムラがないように、というオーダーにも対応できますが、材料の選定や施工にロスや施工手間が発生してコストUPにつながることが前提です。
全く同じ表情の素材ばかりの住まいなんてつまらないじゃないですか!全部がおおらかな素材を選ぶ必要はありません。素材の特性を理解しながら「私の場合は水回りにはメンテナンス性のいい新建材、頻繁に肌にふれるリビングには無垢の木材がいい」など、検討しながら設計を進めていきましょう。
現場での変更はリノベーションの醍醐味
リノベーションは新築と異なり、既存の建物に合わせながら工事を進めていきます。マンションの場合だと、スケルトンにするとコンクリートの四角い箱が出てくるように思いますが、よくみると実は、床スラブも壁も柱も、綺麗な水平垂直ではありません。他にも解体すると竣工図書の記載とは全く違ったところに配管があったり、思ってもみなかった仕上げになっていたり。ミリ単位の寸法を予定通り合わせるよりも、その場で調整する方が結果的に良い仕上がりになることもよくあります。現場で必然的に出た変更が思いがけない味になることも。現場での変更は、それもリノベーションの楽しみのひとつと思ってしまうのが、リノベーションを楽しむコツです。
手を入れながら暮らす
住宅設備の耐用年数は物によりますが10年程度が中心。内装材は10〜15年が耐用年数とされています。外壁塗装や屋根は10年程度を目安にメンテナンスするのが良いといわれます。リノベーションが完成すると、そこから暮らしが始まります。暮らしながら傷みが出てきたところや、生活に合わなくなったところはまた少しずつ手を入れていけばいいのです。
美観を重視する建築家の作品のように、細かいところまで全て決まっていて、完璧な収まりを追求した住まいはとてもかっこいいと思います。でもあくまでも生活の場となる住まい。少し肩の力を抜いて、おおらかに暮らすことも考えてみませんか。
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文:松下文子 Arts &Crafts 取締役副社長