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ものづくりと学びの場へ|鶴身印刷所

今となっては聞き伝えでしかなく確かな記録はないのですが、もともと小学校の講堂としてつくられたそう。固定資産課税台帳によると少なくとも昭和14年には建っていました。現所有者である鶴身印刷株式会社は戦後にこの建物を取得し、印刷工場としてニッカウヰスキーのラベルをはじめさまざまな印刷物を製造していましたが、産業構造の変化、技術進歩の波に押され、数年前に印刷業を廃業されました。印刷業は廃業したけれど、この建物だけはどうにか残せないか。そんなオーナーの想いからこのプロジェクトははじまりました。

【Before】巨大な木造トラスが成す大空間。

【Before】染み付いた油の匂いが建物の歴史を物語る。

印刷に用いられていた石版石。

先代が残していたスクラップブック。

「新」と「旧」を馴染ませる

リノベーションの設計では可能な限り既存の状態と“馴染ませる”ことを大切にしました。「新」と「旧」が地続きなデザインとなること。歴史の積み重ねをリセットしてしまうのではなく継承しつつリスタートする。また「旧」の状態と肯定的に向き合いながら設計をするということは全体の工事費を抑えることにもなり、事業の実利を考えた場合でもメリットにつながります。つまり、事業用の不動産の再生では正攻法と言えます。

【After】木造トラスの大空間を生かすためにエントランスの一部を吹抜けとした。

【After】新設した階段の踏板と蹴込板は従前の階段から再利用。

【After】状態の悪かった漆喰壁はあえて下地材であるプラスターで仕上げ、濃淡のある仕上がりに。

建築の記憶を引き継ぐためのリユース

ご相談の連絡をいただいて最初に見に行った時点では建物内にまだ多くの残置物がありましたが、私たちにはそれが宝の山のように思えました。この宝の山をリノベーションに使わない手はないと。そしてこれらを積極的に取り入れていくことでこの建築のこれまでの記憶を引き継いでいくことができるのではと考えました。

「番台」と呼んでいる受付には石版石をタイルとして用いた。

パレットから再利用したカウンターの面材。

ものづくりと学びの場として

個人事業主や数人規模の会社が入居しやすいよう約10平米〜27平米で区画しています。貸室は彫金、木工といった工房や、建築設計、グラフィックやプロダクトのデザインを行う事務所の用途で募集し、1階の道路に面する2つの区画は店舗を募集します。モノづくり・コトづくりを得意とするテナントが集積することを目指し、この場所が文化を発信していく場となることを期待しています。

吹抜けを設けるなど一部減築を行い建築基準法第6条第1項4号建築として扱えるようリノベーションを行った。

かつて学校施設であったことのメタファーとして中廊下型で計画した。

区画を割るための新たな壁は耐力壁とし耐震改修を行った。

 

 

複合施設としての再出発

内覧会と合わせて元工場長を招き石版印刷機を使った印刷ワークショップとリノベーションで使いきれなかった古物や家具の蚤の市を開催しました。

担当者より

建物を残すというのは想いだけではできません。存在しているだけで固定資産税や都市計画税が課され、所有者責任として建物の維持修繕コストがかかります。事業用不動産の場合は収益を上げられなければ赤字を垂れ流す不良資産として所有者への負担が重くのしかかります。残すためには収益を上げられる不動産としてよみがえらせなければなりません。築年不詳かつ比較的規模の大きな建築の場合は建築基準法が大きなハードルとして立ちはだかります。今回のリノベーションでは不動産的なマーケットの読み解き、事業計画の策定を行いながら、同時並行で建築的な法規の検証と設計の検討を行いプロジェクトを進めました。

OUTLINE

物件名 / 鶴身印刷所

所在地 / 大阪市城東区

構 造 / 木造2階建 延床414.87㎡

築年月 / 不詳

従前用途 / 1階:工場、2階:居宅

改修後用途 / 1階:店舗+事務所、2階:事務所

写真:増田 好郎

STAFF

コンサルティング担当:西川純司

設計監理:塩谷昌洋

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