大阪ミナミの中心、難波、それもワンルームマンションのエントランスを抜けた奥に土蔵が存在するなんて、誰も思いはしないだろう。建築時期は不詳、戦時中の空襲に耐え、曳家を経てこの地に移動してきたという。小屋裏の梁に貼付された「明治29年の大修理の記録板」からも長い歴史が感じられる。物語性と意外性のあるストックだが、長らくその魅力を活かされないまま、倉庫として使用されていた。
外装は経年で崩れた土壁を覆うようにサイディングが貼られ、簡易な補修が行われたことが伺えるが、本来の趣を無くしてしまっていた。内部の状態は非常に良く、建築当時の時姿を保っていたが、雨漏りと床の一部にシロアリの被害がでたことを機に修繕と新たな活用方法を探ることとなり、その希少性の高さから賃貸商品としての再生を目指すことになった。
同じオーナーが所有するワンルームマンション、「マンションニューナンバ」のエントランスを抜けた先に位置する。一見、路面店でないことを嫌厭されそうだが、SNSを利用した集客も当たり前となった昨今、それが逆に魅力だと考えた。
リノベーションでは外壁に左官材を施し土蔵本来の姿を再現。最低限の修繕とインフラ工事を行い、戸前と内装にはあえて手を加えなかった。「余計なことはしない」それが歴史を経たこのストックの魅力をユーザーに伝える最善の手段だと考えた。
重厚感のある、蔵ならではの鉄扉。
外壁に左官材を施し土蔵本来の姿を再現。
室内の漆喰も、木部の設えも、オリジナルのまま。
給排水、電気、ガスなどのインフラを整え、トイレを新設。窓を作って採光も確保した。
2階に上がる簡易階段と、重くて動かせなかったため「鐘」つきで賃貸募集をすることとなった。
吹き抜け格子から洩れる「光と影」も幻想的
小屋裏の立派な棟木と垂木が存在感を醸し出す。
明治時代の大修理の記録版
味わいのある木箱や棚はディスプレイの棚としても使える、とそのまま残した。
大阪R不動産で賃貸募集を行ったところ、多くの内覧希望が有り、結果、短期間で5組の入居申し込みがあった。オーナーの審査の末、最終的に入居したのは器の販売と金継ぎを行う職人。海外の人へも金継ぎの技術を伝えたいという思いで物件探しを始めてすぐ、この土蔵と出会った。土壁や漆喰仕上げの内装は金継ぎで必要な調湿環境にも最適なこと、日本の伝統であり繕いながら後世に残し継いでいく存在であることにも通ずるものを感じたという。入居者も、オーナーも、私達も、この人のためにストックが再生したと運命を感じるような出会いだった。
こうして、既存建物本来の魅力と立地の特性、入居者のニーズが絶妙にマッチングし、土蔵はミナミの地で新しい時間を歩み始めた。
入居後の様子。そのままの状態で魅力ある店舗へと生まれ変わった。
OUTLINE
STAFF
コンサルティング /川本美佳
設計監理 / 川本美佳
リーシング / 川本美佳
リノベーション・物件購入の疑問や要望、資金計画など何でもお気軽にご相談ください。
リノベーションの相談をする >施工事例が詰まった事例集や最新のイベント情報を掲載したチラシなど、役立つ資料をお送りいたします。
資料請求をする(無料) >その他の事例